さよなら、もう一人のわたし （修正前）

　あたしは首をかしげた。

「あたしのお父さん？」

「どんな人なのか知らないのよね？」

　千春は確認するように言った。

「うん。全くね」

「お父さんに会いたい？」

　千春は首をかしげ、あたしの顔を覗き込む。

「どうだろう」

　お父さんのことなんて考えたこともなかった。生きているのかもそうでないのかも分からないのに。

「どっちでもいいかな」

　それは紛れもない本心だった。母親と結婚しなかったということは、多分結婚できない事情があったのだろう。

　妻子がいたり、母親とのことは遊びだったり。でも母はあたしを産んだ。だから、本当の父親に会うことで母親が苦しむ可能性があるのなら会いたいとは思わなかった。

「そんなもの？」

「一番大事なのはお母さんだから、お母さんが会いたいと言うなら会いたいかな」

　あたしはそう告げた。

　千春は寂しそうに微笑んでいた。