「カズ…だよね?」



懐かしい呼び方─



俺のことを『カズ』と呼ぶ奴は、1人しかいない。



目の前にいる女は…



「葉月…?」



疑問形にしたが、俺の中では葉月だと確信していた。



まさか…
また会うなんて…



「そうよ。覚えててくれたのね…カズ。久しぶり、元気だった?」



「お前…っ!!」



俺が闇を選び、嘘や偽りで自分を隠すようになった元凶がこいつだ。



始めはこいつと『もう1人』だった恨みの対象は、徐々に人間全体になっていった。



「カズ…ダメじゃない、煙草なんて吸って…お父さんみたいになりたいの?」



葉月はそう言うと、俺が持っていた煙草を奪った。



俺の親父は…
肺ガンで死んだ。



葉月は…
それを知っている。



また、葉月の親父も同じ肺ガンで死んだらしい─



「……何しに来た?」



煙草の火を消した葉月に、俺は小さな声で尋ねた。



「何って…カズに会いに来たのよ。元彼に会いに来ちゃいけない訳?」