「お前…何がしたい?」



先生は、葉月さんから守るようにして、私を先生の後ろに行かせた。



そして、先生は立ち上がって葉月さんの近くへ─



「そんな芝居…俺には通用しない。恭平だって、きっと呆れてるはずだ。」



たとえ過去と言えど、先生が葉月さんを一度でも好きであったことは事実。



恭平さんに関しては…
多分今でもそう。



「カズ…」



「いいか、葉月。俺のことは忘れて、恭平を愛してやってくれ…俺はもう、お前のモノじゃない。」



そう言った先生は、私の方を向いて少し笑った。



「やっぱり…あの頃には戻れない。そうだよね?」



「あぁ…」



これで…終わりだ。
なんとなく、そんな先生の声が聞こえた気がした。



「篠原さん…今日は怖い思いをさせちゃって、本当にごめんなさい。」



「いえ…わかって下さればいいんですよ。それに、私はどこも怪我はしてないし…ね、先生?」



「怪我…か。」



その時の私は無防備で、葉月さんの方を向いている訳でもなかった。



だから…



その一瞬、何が起こったのかは理解出来なかった─