「彼ね、心臓が悪いの。主治医をしているお父様が言っていたもの、間違いないわ」

嘘……

彼女は読心術でも出来るのか、聞いてもいないのに話し出し更に続ける。

「容態も安定しているから学校へ行く事も許可したそうよ」

そんな見栄みえの嘘信じるわけないじゃない。

「だから、彼はマラソン大会にも出ないはずよ? 誰かを守る為とはいえ、出場なんかしたらそれこそ自殺行為よね」

そういえばさっき、『俺には無縁だけどな』なんて言っていたっけ? この言葉と今の香帆の言葉が頭の中で木霊する。

「久しぶりに楽しめそうね」

彼女は最後に一言投げつけ、不敵な笑みを浮かべて去って行った。

嘘よ。輝の心臓が悪いだなんて。

香帆たちの言葉を振り払うように、強く自分に言い聞かせた。

そうよ、きっと私を動揺させる罠なんだ。

フンッ!! 受けてたとうじゃないのよ、売られた喧嘩買ってやるわよ!!

香帆たちの言う事が真実だとは思っていなかったけど、確かめてやるんだから。

 ― 週末 ―

彼女の父が経営しているという黄桜病院に来てみた。

受付で聞き込みをしようとして気がついた。

アイツ、入院しているわけじゃないんだった。毎日学校にいる人が、仮に通院していたとしても教えてはくれないよね?

バカだ私……

待合室に設置されているグレープフルーツジュースのボタンを押す。

  ガコン

缶が落ちてきたので、手を伸ばしていたら

  ♪ ピロロ ピロロ ピロリン

自動販売機が、急に賑やかな音を鳴らしていた。

な、何?

「スゲェ。アタル人いるんだぁ」

聞き覚えのある声のする方を見ると病院が全く似合わない――

「輝……」

「そのアタリで一本貰っていいか?」

「うん」

ねぇ、香帆たちが言っていた事なんて嘘だよね? 出任せ……だよね?

この場にいる輝の姿がそうでない事を示してはいるのだけれど。