「何見とれてんの?」

「な、何も」

「もしかしてキスのおねだり? いけない子だなぁ、此処は学校だぞ?」

「そんなわけないでしょ!?」

あわてて輝と反対方向を向いた。

「……――さて、もう直ぐマラソン大会が行われる。したがって、明日から毎日1時限目を全校一斉体育の授業とする。ジャージ忘れた奴は制服のままで走ってもらうからな」

朝のHRに発表があった。今年もこの季節がやってきた。余程の理由が無い限り拒否する事は出来ない。

か弱い杏ちゃんだって毎年走っているんものね。制服が汗臭さに変わるなんて嫌、ジャージ忘れないように気をつけなきゃね。

「甘奈も走るんだろ?」

「当たり前よ、絶対参加なんだから!」

「ふ~ん、俺には無縁だけどな」

コイツ、サボるつもりだな!! そんな事が許される訳ないのよ。引っ張り出したって連れて行くんだから!!

HRが終わり、いつもの黄色い声をあげてやって来る香帆一味

「ヒカルく~ん、病状あまり良くないんでしょう? 無理しないでねぇ~」

何言っているの? こんなにピンピンしている奴にそんなデタラメ吹き込まないでよ!!

彼女は一瞬私に少し勝ち誇ったような笑みを投げ、再び猫声でヒカルに向いて放った。

「お父様が心配しているわ。たまには診――」

  バンッ!!

輝は力一杯机を叩き、荒れたまま教室を飛び出していった。追いかけようとしたが、香帆たちによって阻止されてしまった。

いったい輝の身に何があったっていうの?

「あら、貴方たち仲がいいからてっきり知っているものと思ったのよ」

アンタは輝の何を知っているというのよ!?