尾骨を擦りながら立ち上がる。

「歩ける?」

「あ、当たり前よ」

そうは、言ってもお尻から太股の辺りに激痛が走り、ビッコを引くようにしか歩けないでいる。

「悪かった」

「……悪いと思うなら、もう構わないで」

「それは出来ないよ」

ヒカルは凄く悲しそうな顔をしている。まるで、迷子の子犬のようだ。

だけど、煮えきった私の心は、そんな彼を可哀想とも思わない。

「アンタが、私に構う度に奴らの行動はエスカレートするの!! 別にアンタがいなくたって自分の身は自分で守れるんだから」

「……」

本当は、ヒカルを待っているという心の支えがあったから強がる事ができた。

もう、私を支えてくれるもの……なくなっちゃった。

「ヒカルがいなくなっちゃったから……誰も守ってくれる人いなかったから……私は強くなったの、もうヒカルがいなくても平気……なの」

強気の言葉とは反対に、瞳からいくつもの涙が零れ落ちる。

彼は何も言わず、ソット涙を拭ってくれた。そんな優しさを受けたら、心の中に仕舞い込んでいた想いが次から次へ飛び出してきて

「ふぇ~ん」

大声を出して泣いてしまった。今まで誰の前でも涙を流すことなかったのに。

暫くの間、私の頭を強引にヒカルの胸に埋められ、黙ったまま髪の毛を撫でていてくれた。

「辛かったな、一人でよく頑張ったな。これからは俺が甘奈を守るから」

ようやく落ち着きを取り戻した頃、昔のヒカルの顔に変わって言ってくれた。

「どうせ、直ぐに引っ越しちゃうくせに」

「もう引っ越さねぇ。髪の色も元に戻す。それから、お前には……甘奈の私物には指一本触れさせねぇから」

そんな、急にカッコよくならないでよ

「そんな、口約束だけなら、誰にだって言えるんだから」

「あんまり、拗ねた事ばっかり言っていると食っちまうぞ」

もうお約束? のキスを交わされた。

お昼のときのような強引な感じではなく優しい感じ。もう何度目かされているのに、初めてするかのようなドキドキ感。

ねぇヒカル、信じていいの?

昔みたいに私だけの王子様になってくれるって?