「奢るし、いこー?」

「あのねぇ、別に私は……っ!」



まるで有無を言わせないようなキス。


それは軽いものだけれど、私の中の何かをいちいち燃やしてくれる。



だけど私の次の言葉が出る前に押見は再び私の手を握り、勝手に歩き始めた。


抵抗を見せて足を踏ん張ってみても、さすが空手部主将をのしただけあって、意味がない。



しかし何故。


たまたまゲームセンターで見つかっただけなのに、何故ここまでつきまとわれるのだ。


学校で話したことなんて皆無のくせに。

まあそもそも接点がないのだけれど。



「そんな顔しないでよー、せっかくのデートなのに」

「は? 誰が誰とデートしてるって?」

「んー? 俺とかいちょー」



甚だ可笑しい。


たまにちらっと振り返りながら歩くその姿は、勝手に楽しそうには見えるけど。



人込みを抜けて、小さな路地にずんずんと進んでゆく。


普段私ひとりなら通るのを避けるような場所。


ああ、私って危機感薄い?


こんな奴にこんな道連れ込まれたら、もうちょっと激しく抵抗するべき?