before kiss, after kiss[短篇]

 
「どうせ好きになるなら、全力で好きになって。そうしたら、二倍にも三倍にもして返してあげる」



プライドなんてとうにない。

だけど従順にこいつの空いた穴を埋めてやりたくない。


私は、私。



家族の代わりにはなれないんだから。



足りない部分は、互いに満たしていくものでしょう?



「うん、大好き」


そのくしゃっと歪む顔を見てから、疲れた首を元に戻す。

頬に、頬がくっついてきた。


「ね、黎(ライ)も俺のこと名前で呼んで?」


二人の頬の間を温い水がじわりと広がってゆく。


「……どれぐらい私を好きか言えたならね」

「このままもー一回出来そうなぐらい」

「……あのね」

「もう夜だし、次は窓際で夜景を見ながらとかもいいかもー」

「どうしてそういうことばかりなのよ」


鳩尾に組まれている手の甲を抓(つね)ってやると、すぐ隣の唇から小さな笑い声が漏れた。