before kiss, after kiss[短篇]

 
「よーやく手に入ったんだから。大切にしなきゃ」


本当、私もコイツの何が良かったんだか。

なんて思うものの、大した理由なんて思い浮かぶ筈もない。



ただ今日までずっと渋ってきた、この家に来ることを。



以前言っていたように。

「誰でも良かった」とか言われるのが怖くて。

「ただの前後摩擦運動」だなんて言われたくなくて。



だから目が覚めて、気持ちよさそうに眠る顔が横にあったとき、心の底からほっとした。



「……寂しくないね」


ぽたり、お湯の中に雫が落ちた。


「今俺、すんごーく幸せ」


肩に乗っていた顎が額に代わり、背中を雫が伝ってゆく。

鳩尾にあった手が、強く私の身体を引き寄せる。


「だからずっと……」

「私のこと、中途半端に扱ったら承知しないからね」


言葉を遮ったからか、内容に驚いたのか、ぱっと額を離し顔を見つめてくる。


ほんのり赤く染まったその瞳で。