before kiss, after kiss[短篇]

温いお湯が、私の手を滑り落ちてゆく。

その手を止めずに視線を上げれば、愉しそうな顔がそこにはあった。


「どっちもイヤ」

「わがままはダメー。どっちか」

「どっちがわがままなのよ」


というかそれ以前にどうしてすることが決定事項なのだ。

それすら了承した覚えはない。


溜め息を零して水道の蛇口を捻ったところで、奴の手が伸びてきた。

後頭部を持って行かれる。


「……どっちか選んでー?」



ひどい。

こういうときにキスしてくるのは確信犯だ。

目の前の瞳を見返せば、男の色。


こういうことばかり、覚えてきて。



もう一度、溜め息をつこうとした瞬間。


私の吐息は飲みこまれた。