「えー、ムシ? あ、それとも俺のこと知らない?」
知らなければどんなに幸せか。
でも残念ながら知っている、入学早々上級生と喧嘩して謹慎処分食らった押見(おうみ)君。
「知ってるって顔してる。ふーん、かいちょーって美人さんだけに嫌味な顔するねー」
かいちょーかいちょー煩い。
耳障りな音は他にたくさんしてるのに、やけにその声が耳につく。
振り払いたい一心で足を速め、自動ドアをくぐるも彼が離れる様子はない。
アーケード街に出れば、嫌な意味で人目を引いてしまった。
ただでさえこの押見は背が高く目立つ、なのに金髪で服装も派手で。
「ねー、ちょっとぐらい喋ってくれても良くない?」
まるでしつこいナンパ師のように話しかけてくるんだから尚更だ。
すれ違う女の子たちがこちらを見て何か囁いているのが目に入る。
休日ぐらいひとりで楽しませてくれ。