(あれ?そういえば……)


キルシュはさっきまで夢中になっていて気付きませんでした。

ハルトの両手首に包帯が巻かれている事を。

出会った数日前にはそんな包帯はしていなかった筈だ、とキルシュは思いました。

しかしそこまで深く考える事でもないと判断したキルシュは、

そのまま眠るハルトの姿を見ながらも、

緩やかに吹く心地良い風に当たりながらハルトが起きるのを待ちました。

キルシュの名前の由来だと聞かされた、薄桃色の花びらの舞うある春の事でした。

この時彼女は思ってもいなかったでしょう。

これから起こる事件とハルトの巻いている包帯が関係している事を。