「……大丈夫?」


自分以外誰もいない筈なのに、何故か聞こえる第三者の声。

それはキルシュにとって今最も愛する人の声に似ていました。

涙を袖で拭ってからキルシュは声のする方向を振り向きました。

そこには寝間着姿のままのハルトが立っていました。素足のままで。


「な、なんで……!? 安静にしていなくちゃ駄目なのに」
「君がちょっと悲しい顔をしたから。先生無視してついて来ただけだよ」


相変わらずその言葉に感情はあまり籠ってはいませんでした。

普段のキルシュならばそれでも何も怒らないでいましたが、それに対して初めて怒りました。


「よくそんな平気な顔をしていられるよね……怖くないの? だって、だって……」


両手で拳を作り、その拳を震えさせながらキルシュはまた涙を流しながら言います。