目の前に銀色のエナメルジャケットの伯父さんが立っていた。
どうやらこの伯父さんを見てみんな笑っていたらしい。

伯父さんが動くたびにクスクスと笑いを耐える声が背中から聞こえてくる。

伯父さんが俺の肩に両手を置き、その瞬間くしゃみをするとまるで紙が風に舞い上がるように伯父さんのカラダが宙に浮かぶ。
それを見て周りでは大爆笑が起こる。

俺だけは笑えずにいた。

伯父さんが、地面に降りてくる。
不安定なままふらふらと両足でカラダを支えている。

バランスを崩して伯父さんが倒れかかるところを俺は手を差し伸べようとした。
その瞬間、伯父さんの目が俺の目を捕まえて、「本当にいいの?」と伯父さんが俺だけに聞こえるように呟く。

俺はその言葉にたじろいで伸ばしかけた腕を止めた。

そして伯父さんはぱたりと地面に倒れて伏せている。
そこにまた大きな爆笑が渦のように起こる。

伯父さんはマジシャンみたいな髭をたくわええらく紳士そうな顔つきをしていた。
伯父さんの腕をつかんで抱えあげると周りで笑いが起った。
俺のエメラルドグリーンのスーツが泥がついて牛のようなに迷彩に汚れていた。

「あぁ、スーツを汚してしまったな。おまけにおまえは笑い者!これは愉快なことだなぁ。」

俺のムッとした顔をみて、伯父さんは「まぁ一杯おごるよ」と俺の肩に手を回した。
その瞬間、俺は伯父さんの腕に妙な感触を感じて、ハッと驚いて目を覚ます。

夢から覚める間際に伯父さんが俺に手を振りながら大声でこう言っていた。

「金魚のような顔な女、それは純粋無垢の証さ。見たこともない初めての世界を遊泳する彼女のときめき。俺はそれを想像するたびに胸が膨らむ。」

伯父さんは目を輝かせながらさらに大声で続けた。

「もしおまえがそんな女に出会ったらつかんだまま離すな!」

目を覚まししばらく放心して低い天井を見上げていた。
窓の外からは雨音が聞こえていた。

今度は、はっきり目を覚ました俺は、三日前からベランダにかけたままになっていた洗濯物を急いで取り込むために窓の外に飛び出した。

その日はそのまま朝まで起きていた。
それから出勤時間になり、俺は会社へ出かけた。