28歳、男、独身、職業サラリーマン。
平均年収380万、インセンティブ制度によりボーナスなし。
彼女いない歴約5年、趣味なし、車なし、ローンなし。

名前は河合太郎。

子供のとき渇いた太郎とあだ名され、かならず夏になるといじめられた。
まるで夏が暑いのは俺がいるからだといわんばかりに・・・、それで運動会が嫌いになった。

俺はそれからというもの自分に自信をもったことはない。

中学のときに一つの言葉があることを知った。
虚という文字からなる言葉だ。
虚無、虚勢、虚飾、空虚、まるでとらわれたように頭のなかを支配した。

あいつは虚勢をはった。
彼女の美しさは虚飾だ。
美辞麗句、微笑み、友情。
あらゆることへ虚無を感じた。
この虚ろなかに何もない空洞を、当時の俺はイメージにして理解していた。

イメージはいつも黒。
光もないそのなかに、影が忍んでいる。
そこに虚が存在するように思えた。
透明とは違うもの、でも存在するもの。

俺は、自分が抱いている虚のイメージの人間らしい血の通った陰雑さが好きだった。
そうして、虚は俺の頭に住みつき、俺を支配し、すべてのものの裏返しにするかのように、疑惑の念を抱くようになっていた。

まるで虚という魔人がこの世界のすべてのことを造作しているように。