中庭に到着したフィリシアは、ミシャが残していってくれた扉を見つめていた。


空間の亀裂の中にある蒼銀に輝く巨大な扉。


これが自分の魔力とミシャの血から出来たのだと思うと、フィリシアはきゅっと心が痛んだ。

太陽族の城に来てからというもの、フィリシアの感情はそれまでと比べ遥かに豊かになっていた。


寂しい、という感情さえも、よく解らなかったが今ならわかる。


今、こんなにも心が痛いのだから―――…


じっと、扉を見つめていると後ろから声をかけられた。


「早いね、フィリシア。」


「…レガート様。」


そこには、フィリシアと同じく扉を見つめるレガートの姿があった。


「よく休めたかい?」


レガートの声はフィリシアを気遣ってかとても優しかった。


「はい…」


「空間の亀裂も、この扉も、ここだけ時間が止まっているかのようになんの変化も起こっていない。

全て、あの時のままだ。」


「あの時…」


ミシャの、最期の、あの時…。

「どうして…ミシャは…」


そこまで言うと目頭がじわりと熱くなり、フィリシアはそれ以上言葉を続けることが出来なかった。


「…私は、あの子が苦しむのを、ずっと見ていたのにどうすることも出来なかった。」


うつむくフィリシアを気つかわしげに見つめ、レガートが話し始める。


「出来れば、自分の使命など忘れ太陽族として生きていって欲しかった。


…だがやはり、課せられた使命を果たすための意識が働き、ミシャは苦しんだ。」