フィリシアが自ら導き出している月の光が差し込む以外に光は無いが、それでも小川や岩壁に無数にある水晶に乱反射し、神秘的な光が灯る。


魔物達も寝静まる深夜になると、聞こえるのは小川の流れる音とフィリシアの立てる音だけであった。


ここにはフィリシア以外に人はいない。


長い間この空間に一人でいたフィリシアには時に自分を支配する感情がある。


それは胸の奥深くに流れこんでくる。


ツキツキとした痛みのような、けれでも実際に痛みを感じるのではない不思議なものであった。


その痛みのような感覚がしている間は何故か涙が出てくることもあった。


しかし、それが何を思って流れているものなのかはわからなかった。


この感情を、フィリシアは意識的に忘れるようにしていた。


フィリシアは長い間をこの空間で過ごしていたが、初めから一人だったわけではない。


ここに初めて来たときには老婆が一緒にいた。


ずっと闇から逃れるようにして旅をしてきた二人にとって、この空間を見つけることができたのは幸運であった。