「…さぁ、行こう。フィリシア」


老婆は立ちすくんでいる幼い少女の背中にそっと手を置き、諭すように言った。

「みんなどこにいったの?」

少女は老婆を見上げ、老婆の茶色い瞳をのぞきこんだ。


少女の瞳は不安そうに揺れている。


「皆はもういなくなってしまったのだよ。」


「いないってどうして?なにがおこったの?なんで………」


少女の声はかすかに震えた。


老婆は少女の目線に合わせるようにかがみこみ、その紫闇の瞳を見つめながらゆっくりと言った。


「とても長い話だ。」


声を出すのが億劫でもあるかのように、しゃがれた声でゆっくりと話す。


「今のお前には難し過ぎて理解できぬだろう。時が来れば…わかるときがくる。」


老婆はすっと立ち上がり、少女の手をとった。


「ただ今は…これだけは覚えていておくれ。我が一族は消えたのではない。消されたのだと。……さぁ、行こう。もうここにはいられない。」


誰に…と聞く前に老婆は少女の手を引いて歩き出してしまった。


「どこにいくの?」


「遠くへ…できるだけ遠くへ。今は…闇族に見つかるわけにはいかない。」


「やみぞく…?」


老婆は深く被ったローブの中で少しだけ悲しそうに笑った。


まだ幼い少女はその顔を見つめることしか出来なかった。








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