「はぁー」

「あ、工藤君トイレ…?」


バッ!と一斉に向けられつつあった視線は教室の外へ。
2時間目の終わり、転校生はとうとう逃げた。
そう気付くのは、きっと、私と通路挟んで隣の山田君ぐらいかもしれないけど。


「うふふ、来てやったよー!!」


ニコッと笑って言った朱里に私は小さく笑った。


「背、185だってー」

「へぇ、そうなんだー」

「あ!まだ怒ってる!」

「だって!!」


わずかな時間でもいびきをかいて熟睡する才能は素晴らしいと思う。けど、先生が呼んでも返事がないし声をかけてみたら盛大に舌打ちされたのだ。


「もーそんなに怒んないの!でもさー男子達も話したいのに、話せなくてかわいそーだよねぇ」

「あっ、朱里~」


男子たちって言ってるけど、ほぼ霧島君だ。
話したいオーラが霧島君からポロポロこぼれている。


「バレちゃった?」

「うん!バレバレ」


互いに笑いあってると、あ!と女の子たちの視線が廊下の方へ向く。


「工藤君、トイレ?」

「あぁ」


視線の的が教室に戻ってきた。また女の子が集まりそうな中、席に戻るなりなぁと隣の山田君に声をかけた。
その光景を見て、女の子達が少し残念そうに席へ戻って行く。


「次って英語だよな?」

「そっ!英語!」


ぎこちないながらも、どこまで進んだ?とか、どこまで習った?とか話し声が聞こえて来る…。
その中で、朱里をチラッと見ると口がポカーンと開いていた。

あ、じゅっ、朱里ー!!

あわてて私は朱里の制服の袖を引っ張った。
それにハッとした朱里は、勢いよく口元を押さえる。


「やだぁー!!」



話をしてるのにビックリでなのか見惚れてなのか私には解らないけれど、顔を赤くする朱里を見ながら必死に笑いを堪えてると山田君が声をかけてきた。


「相沢ー、工藤に英語のノート見せてやってくんね?俺、一昨日取ってねんだわ」

「あー」


チラッと見るとまた…


「ちょっと待って」


ノートを取出しペラペラめくって、机に勢いよく音を立てながら置く。
そんな光景を頭に浮かべながらノートを渡した。


なんで?どうしてだろう。
なぜ睨まれなきゃならないのよ!
私、なにかした!?

またイライラしてると声を掛けられた。


「おい」


振り向くとノートを目の前に突き出してきて、体を少し反らすと更にノートを突き出してきた。

もう、ホントなんなのよ。
このイヤな気持ちを隠すのもなんかバカらしくなってきた。
ギロッ睨み返して、私はノートを取り上げた。