「そう。私、そこで産まれたの。

あたり一面の海と、牛と、あぜ道と、さとうきび畑に囲まれた……何もないようで、たくさんの魅力が詰まっている、素敵な島。

両親にね、今の主人とのことをすごく反対された。

だけど、恋愛で何も見えなくなってた私は、主人とふたりで島を飛び出したの」


「ご主人は……あの島にあるホテルの、シェフだったんですよね」


「あら、よく知ってるわね。優羽吾から聞いたの?」


彼女はフフっと笑い、昔を思い出すように天井を見上げる。







「当時ね、母親の具合があまり良くなかったの。島の診療所じゃ手に負えないから……って時だった。それなのに、私は……」


「え……」


「本島に行って、精密検査を受けたら……癌だったのよ」


「えぇっ……!!」


「でもね、そのことは知らされてなかった。後で、知った。もうだいぶ病気は進行しててね……。だから、余生を島で過ごして……静かに息を引き取ったそうよ」


亜沙美ちゃんのお母さんは、目に少し涙が滲んでいたけど、それでもそれ以上は溢れないように必死で何かと葛藤しているように見えた。