私は……


大きな家の前にやって来ていた。


学校からそれほど遠くない家。


この高校に赴任してきた時、亜沙美ちゃんに連れられて久々にここまで来たけど、


高校生の時に、仲間みんなで何度か通った思い出の道。


一回だけ、優羽吾くんとふたりで歩いたよね。


駅までの帰り道、あの時は初めてキスしたっけ。


夜道を歩きながら、その懐かしい道に胸が切なくなった。


亜沙美ちゃん、夏休みに挙式するって聞いたけど……愛斗くんとのこと、もういいのか
な。


諦めたの?諦めさせられたの?


学校で話しかけても、センセーは心配しないでよ!って明るく返される。


沖縄でのこと、忘れたいよね。だからって、はっちゃんと……。


複雑な気持ちのまま、チャイムを押す。


すると、玄関のドアホンがピカッと光った。


「あらっ、桜谷先生!?」


声の主は、亜沙美ちゃんのお母さん。


「突然すみません、ちょっとお話が……」


私がそう言い終わる前に、「少しお待ち下さい」と言い残し、音声が途切れる。


黒谷くんへの手紙と病院への手続きは……


きっと、亜沙美ちゃんのお母さんの計らいだと思っていた。