新型の白いベンツが、女のマンションの前で止まった。

沈黙の車内で、女が聞く。

「ロシア行きって、もし決まれば、それはいつから行くの?」

「…わからない。まだ日程も未定だよ」

「そうなの…」

早く車から降りてくれ…とでも言ってるように、男はドアのロックを解除した。

女は車から出た。

ドアがバタンと閉まる。

車は発車した。

残された女は、立ち尽くした。

車が小さくなり…やがて消え去ってからも…いつまでも……。

身動き一つ取らず立っていた。


死ぬほど好きな男が消えた…。

そんなに未練たらしく思い残すなら…抱かれりゃぁよかったじゃん!

何もったいつけてんのさ、処女でもあるまいし!

女の気持ちは…抱かれたかった。

   では、なぜ?