呆れた。
おまえは、いったい何のために結婚したのだ?
途中で夫を手放すような、否、手放せるようなそんな生ぬるい覚悟しかなくて、何故いっしょに行くなどと言って荷物をまとめたのだ?
おまえの妻としての覚悟とは、その程度のものだったのか?
安全が絶対に保証されている国などこの不安定な世界どこに行ったってあるはずがない。
たまたま、今回父さんが向かわされた土地が目立って不安定な治安地帯というだけ。
日本だっていつどこの国がテロを仕掛けてくるかわからない、そんな世の中だ。
それがなんだ、父さんに言われたからと、はいそうですかと、父さんに言われるがまま二つ返事で、表面的には安全な日本に逃げ帰ってきたと言うのか。
つくづく呆れて物が言えない。
こみ上げる涙が喉の奥をじりじりと焼く。
まさか死ぬために結婚するわけではあるまい。それはわかる。自分の命が惜しいと思うのも人として当然のことだ。
だが、それはなにも聖華一人に限ったことではない。
藤吾とて同じだ。
不安や恐怖を呑み込んで、藤吾は職務を全うしようとしている。
それなのに、おまえは。
おまえは、おまえはおまえは――!
(おまえは、父さんを支えてあげなきゃいけないやつだろ)
それがおまえが果たすべき務めではないのか。
誰よりも近くで。父さんの傍で。父さんが苦しいとき、悲しいとき、疲れているとき、また笑顔でいるときも、彼の傍を離れてはいけないただ一人の存在だろう。
「!」
気づくと聖華をソファに投げ飛ばしていた。きゃっ、と短い声を上げて、聖華はソファに沈み込む。
即座に体勢を立て直し、泉ちゃん、とすがるように名前を呼ぼうとして、次の瞬間、
聖華は絶句した。

