キミは聞こえる

 すっかり耳に馴染んだ男の声に泉ははっと顔を上げる。

「桐野くん」

 こちらも部活帰りなのか、上下ジャージーに、エナメルのショルダーバッグを肩に提げている。

 隣の矢吹に目を留め、あれ、矢吹? と軽く目をみはる。

「なんで代谷が矢吹と? つか、その大量の荷物、なに?」
「友香ちゃんと買い物に行った」
「駅前で荷物の重みによろめいているクラスメイトを発見したので、手を貸したの」
「……目に浮かぶようだぜ。って、ん? 矢吹?」
 
 ほいほいほい、と矢吹は持っていた買い物袋を桐野へと手渡す。

「俺んち、あっち。おまえ、代谷さんと一緒の方角でしょ? ちょうどよかった」

 矢吹が持ってくれると知ったときはすかさず遠慮した泉だが、桐野には遠慮はナシである。

 なんてラッキーだろう。

「じゃあね、代谷さん、桐野」
「ご親切にどうも」
「おう、また月曜な」

 矢吹を見送った桐野、くるりと泉に向かい合うなりなぜかむっつりとした顔になる。

 なんだろう、という問いかけの眼差しに、少年は唇を尖らせてこう言った。

「……ああいうのは、浮気とは言わないんでしょうか」
「……は? 浮気? 荷物を持ってもらったのが?」
「そう! でも、そうじゃなくて、俺が言いたいのは、二人きりで並んで歩くことがッてこと」

 ああ、と泉は思う。

 本人にそういう気持ちは欠片もないのだが、桐野には堪らない行動のようである。

「気分を悪くしたなら謝るけど、浮気じゃない。私が好きなのは桐野くんただ一人だから」

 わからないの? と上目遣いにのぞき見る。

 と、たちまち桐野の顔は真っ赤になった。

「……顔、赤いけど」
「そういうことは言わなくていいのッ!」