キミは聞こえる

 身体の芯から凍りつくような、強い怨念のようななにかが勝手に泉の中に流れ込んできたのだ。

 隣に矢吹がいる。

 また、あまりにこの町に馴染んでいない、いかにも怪しげな男に、妙な焦りや不安を悟られたくないと、つとめて平静を保つ。

 傍らを通り過ぎるとき、一瞬ながら不快な視線を感じ、泉は露骨にならない程度、男から顔を背けた。

 それからもしばらく無言で二人は歩を進め、気配がだいぶと遠のくと泉はおもむろに歩度を緩めた。

「ねえ――」

 声をひそめて泉は言う。「さっきの男の人、こっち見てるか見て」

 何故とは訊かず、言われるまま矢吹は後ろを振り向いて、

「見てないよ」

 と同じく小声で応えた。

 そう、とだけ返して二人は休まず歩き続ける。

 角を曲がったところでようやく泉は身体から力を抜いた。
 軽い気怠さが全身を覆っている。

「知り合い?」
「知らない」
「見たこと無い顔だったな。観光……? にしては、どうにも妙な雰囲気だったね。誰か捜してる、って言ったほうが正しい感じだった」

 そう、そうだ、と泉は大きく頷く。

 豊富な自然に癒されているのではない。

 あの眼差しは、確かになにかを捜している様子のそれだった。

 そして、捜していると言っても、それは観光名所でも、タクシーでも、また迷子になった子供でもない。

(何者だ)

 顔をしかめる泉に、ふいに声をかける者があった。

「代谷!」