キミは聞こえる


 佳乃に声をかけた。

 視線の先は泉たちを向いているのに、いまだロビーのソファから離れず、おろおろとしている佳乃を見て、自然イラッとした。

 その姿はまるで、おいでよ、という言葉を待ち望んでいるように見えた。
 わかっても、泉は言わない。

 驚いたように千紗と響子が泉を見る。

 どうして佳乃のことを気にかけるのかわからなかったのだろう。

 泉本人もそうだった。
 どうしてこんなことをしているのか、甚だ疑問でならなかった。

 なんで放っておけないのか、自分で自分が腹立たしかった。

 心の奥で佳乃に舌を打つ。 

(さっさと来なさいよ)

 泉の問いかけに、ようやく佳乃は立ち上がり、行く、と言ったものの、なかなかすんなり駆け寄ってこない。

 食べきれなかったアイスと泉たちを交互に見つめ、どうすればよいだろうかと意見を待っているようだ。

 今にも泣きだしそうな目が切実に泉を見つめる。

 ……そんなもん自分で考えろよ。

 あまりのぐずさにいますぐ踵を返してそのまま階段を駆け上がりたいと思った。

 しかしクラスメイトが見ている手前、言いたいことも言えず、泉は自分の持てる我慢を最大限に振り絞って佳乃を待った。

 だが―――

「行かないんなら行くけど?」
「泉行こうよ。栗原さんまだアイス食べてるしさ」

 泉の努力むなしく、はなから一緒に行こうとしていない千紗たちは苛立ちを言葉に出し始めた。

 気持ちはわからなくもない。むしろ激しく同感だ。

 手を引く二人に体重が後ろへと引きずられる。

 それを見た瞬間、佳乃の顔が大きく歪んだ。

 ―――まずい。

(泣かれたらアウトだ)

 泉は引きずられる体勢のまま口を開いた。

「栗原さんはどうしたいの? 行くのか、行かないのかくらい自分で決められないの」