キミは聞こえる

 ちょっと噴き出しかけた矢吹、じゃあ一軒目と、二軒目は? と尋ねる。

「左手にあるのが一軒目」矢吹の手を眼で指し示す。「私の右手にあるのが二軒目」

 山となった洋服のカートには、友香を含めバーゲン大好きの娘たちが、店員の、どうぞ、という合図と共に一斉に群がった。

 その間、泉は付き添いの旦那、彼氏たちと共に戦火の外で待ちぼうけである。

 戦利品として、買ったらすぐさま洗濯の上、秋冬箪笥の奥だな、と思われる長袖のカットソーを何枚かもらった。

 そのうちの一枚が、引っぱりすぎてウエストの辺りが不自然に伸び、土偶のようになっていた。

「あれ、この袋は見覚えがあるな。男モンでしょ」
「はとこが彼氏にあげるの」

 きゃーこれ悠士に似合いそうー! と女の子全開ではしゃいでいた。
 恥ずかしかった。

「代谷さんはいないの?」
「え?」
「彼氏」

 言われて、ふっと桐野の顔が脳裏に浮かぶ。

 じんわりと胸が熱を帯びるのを感じながら、泉は首を横に振った。

「そうなんだ」
「彼女は?」
「同じく一人」

 これだけ女子と遠慮無く会話が出来るなら恋人の一人や二人いそうなものだけれど。

 本当かどうかはわからないが、思えばもてる桐野でさえ恋人と呼べる女はいなかった。

 恋人の有無は、顔や性格だけでは見分けられないものらしい。

「ミスコン、出る?」
「出ない」

 やっぱり脈絡がない。なさすぎて逆におかしい。

 話しやすい、ということだろうか。

「千紗は出るみたい」
「優勝出来っかな」
「応援に行きなよ」
「それは知希に言う台詞だよ」

 知希? と泉は首を傾げる。

 はて、毎度の事ながら困った。誰だろう。

 桐野でないため、なかなか簡単に助け船を求められない。

「千紗の、いい人なの?」とりあえずそう繋げてみる。

 と「それはどうかな」と矢吹は曖昧に応えた。

「友達以上恋人未満、な感じ?」

 出た。最近の言葉だ。

 だが、今の泉にはその言葉の意味がはっきりと理解出来る。

 まさに、桐野と泉の関係がそれに当たる。


 互いに相手のことを好きだと知っているが、恋人ではない。