キミは聞こえる

 将来について、あまり真剣に考えたことはない。

 父のように帰宅が遅すぎるのは嫌だし、海外転勤なんて以ての外。

 公務員が無難だが、教師や警察官は絶対に向かない。

 強いて言うなら、看護士か、医者……だろうか。

 友香の激務を見て憧れたわけでは決してない。
 社会に貢献する仕事がしたいと、そんな美しい考えを持つ人間ではない。

 ただ、どちらかになって、友香の勤務先に身を置くことが出来れば、彼女の重労働をほんの気休め程度でも緩和してあげられるのではないかと思ったのだ。

 泉が社会人になる頃、悠士は鈴森南高校で教師をやっていることだろう。

 友香の祖母の下で半ば秘書のような扱いを受けているかも知れない。

 六歳差は、口で言えばたいしたことがないように聞こえるが、実際、結構の年齢差である。

 悠士が新社会人として慌ただしい日々を過ごしている間、友香は俗に言うアラウンド30という単語に翻弄されながら、若い恋人を応援したい気持ちと日々の目まぐるしさと焦燥感との間でぐらぐら揺れているかも知れない。

 友香に時間が出来れば、きっと、悠士と過ごす時間も増えよう。

 どうせなにも思いつかないのなら、せめて友香の役に立つ仕事に就きたいと思う。

「部活は?」
「え? ああ、俺はテニスだけど。硬式の」

 ああ痛いっ。硬式とか、痛いっ。

 運動音痴の悲しい性かな、硬式と聞いて真っ先に頭に浮かんだのはラケットでもボールでもコートでもなく、打撲による青あざでる。

 また、駅からずっと気になっていたのだが、矢吹の顔には、ほお骨と十字になるよう絆創膏が貼られているのだ。

 やはり運動には怪我が付き物だ、と思う。おお痛い痛い。

 それがなにか、という顔をされたので、なんとなく、とだけ返した。

「それにしてもずいぶんと買ったね」

 それにしてもなんとも脈絡のない会話だ、と自分のことは棚に上げて泉は思う。

「そうだね」
「全部夏服?」
「一部は」
「じゃあ残りは? これ、基本軽めの夏物にしてはずいぶんと重量感があるんだけど」
「春物バーゲン詰め合わせ………その袋は、たしか三軒目」
「三軒目?」