迎えに来てくれたと、素直に喜べないほど容赦なく、何度も何度も痛めつけられたのだろう。

 そばにいたい。
 愛されたい。

 その気持ちはたしかにある。

 けれど、おそらく本能が彼の身を案じ、拒絶の意志を強く彼の身体に作用させる。

 だからとっさに泉の背後に隠れた。


≪それに、ママは……ままは…………ぼくが、じゃま…なんだ≫


 翔吾の一言に胸が痛む。

 邪魔。

 自分のことだ。

 邪魔―――。


 これは、母のことを思う『親心』ならぬ『子供心』だ。

 どんなに傷をつけられても、酷いことを言われても、母は唯一無二、替えのきかないたった一人の存在なのだ。

 その者を思い、自ら自分を殺そうとする言葉を紡ぐ。

 やりきれない思いにかける言葉もない。

 これほど間違った親思いな子供は、翔吾をのぞいて他にはないだろう。

≪翔くん……≫

 抱きしめる腕に力を込める。泉は精一杯の力と思いを込めて小さな小さな身体を抱きしめた。

「代谷」

 そっと桐野の手が肩に触れた。

 次の瞬間、息を呑む音が泉の耳朶を微かに揺らした。

 そして、


 ごめんな、代谷………


 つぶやく桐野の声が聞こえた気がした。