キミは聞こえる

 隣から佳乃の声がした。ぶんぶんと袖を引っぱられる。

 凄まじい勢いで桐野に追い着かんとする男の後ろ姿を捉えた。

 先ほど一人の男に付きまとっていた二人組の片割れだ。

 あいつだな、先ほど桐野を危険な目に遭わせたスライディング野郎は。

 またしてもボールを強引に脇から奪うつもりなのか、男は桐野にその身を横づける。

 男の身体がほんの少し桐野の前にはみ出した次の瞬間、男の頭が消えた。

 おもわず袖を掴んだ佳乃の手をぎゅっと握りしめた。

 男が芝生を滑る―――
 先ほどと同じ展開。

≪同じ手を二度も食らう俺だと思うなッ≫

 声がした。

 桐野は、ボールと共に男を軽々と飛び越えた。

 客席がどよめく。

 キーパーが構える。

 怖じ気づく気配など欠片も見せることなく、桐野はひた走る。

 佳乃の手にも力がこもった。

 ボールが飛んだ。

 キーパーが大地を蹴る。

 瞬間、会場が静寂に包まれた。

 そして―――。




 ゴールを報せるホイッスルと共にふたたび爆風が会場を包み、客席が揺れた。