キミは聞こえる

「い、いいの……? わたしからのな―――」

 なんかで、と続けようとしたところでこれでもかというほど鋭い眼差しを向けられ、恐怖で声が凍った。

 両の掌で丁重に受け取り、なおもずいっと伸ばされたままの手首におずおずと結びつける。

「あんまり緩くすんな」
「は、はい……」
「きつく結べ」
「は、はい……」
「すきだ」
「は、は……………は?」

 思わず間抜けな声が洩れた。

 結ぶ手をいったん止めて、佳乃は小野寺を仰ぎ見る。

 そっぽを向いた小野寺の耳がほんのり赤くなっていた。

 返事のない佳乃を訝しげに思い、ちらりとのぞき見た小野寺の目はどこか不機嫌そうだ。

「……そこも、はい、じゃねぇの」
「は、え…だ、だけど……」

 頷けばその瞬間、佳乃は彼の想いを認めたことになる。

 嬉しくないはずはない。まさか、彼が自分と同じ思いでいてくれたなんて。

 ……だが、やはりそれはいけないことだと思う。

 どんなに怒られても、ばかばか罵られようと、彼は私を好きでいてはいけない。

 彼にはもっと相応しい女性がいる。自分などが隣に並んでは、彼の品位を落とすだけだ。

 まぶたを半ば下ろし、彼の視線を遮る。そして自分に言い聞かせる。


 ……自分を貫くのだ、佳乃。


 己の望みに、彼の優しさに、傾いてはならない。

 それが私の、いままでの、そしてこれからも続く、彼へのたゆまぬ愛情であろう。


「おまえもそうだから、これ、用意したんだろ」

 結び残りを無くすように小野寺は自分の歯と反対の手を使ってきつく補強した。

「おまえ、俺の言ったことちゃんと聞いてたか?」
「う、うん…」
「じゃあなんでいま、またくだらねぇこと考えた?」
「えっ」
「顔見りゃわかんだよ。……チッ、ふだんはどんなことにも従順なくせにこんなときだけはやたらめんどくせぇやつだな」
「ご、ごめんなさい……」

 小野寺の手が佳乃のアゴを、頬を、拭う。

 引っぱるように、目尻に溜まった涙を乱暴に親指の腹でぬぐい取るのは中学の頃から変わっていない彼のやり方だった。