キミは聞こえる

 途端、目の縁を湿らせていただけの涙は、とうとう雫という目に見える形を取って彼女の顔から零れ落ちた。

 それに気づいた小野寺の手がにわかに緩くなった。

「くりはら……」
「わ、たしからなんて、ミサンガ、もらっちゃ…駄目だよっ。どう見られるか、小野寺くんも、わかってるでしょ…!」

 言葉にした次の瞬間、それまで我慢してきた涙がぼろぼろと佳乃の頬を伝い落ちていった。

「わたし、だよ。くりはら、よしのなの……っ! 私からなん、か…なにも、受け取らないで……っ!」

 確実に嫌われた、と直感した。

 そうわかってもしょうがなかった。もう言ってしまった。

 唇を引き結んで佳乃は踵を返すと一目散にその場を逃げ出した―――出そうとしたところで。


「おまえが決めつけんな!」


 今度は逆の手首を掴まれて、走りださんとしていた佳乃の身体は勢いを削がれて反動でよろめいた。

 小野寺の手が絶妙な力を加えて彼女を支え、なんとか体勢を崩さずに済んだ。

「……だっ、て」
「だってもクソもあるか、ばかやろう!」

 小野寺が舌を鳴らす。

「おまえが俺に命令すんじゃねぇ。すくなくとも、そんなくだらねぇことは今後一切、口にすんも、考えることだって許さねぇからな」
「おのでら、く、ん…っ……」
「受け取るか受け取らねぇかは俺が決めることだ。おめぇが勝手に決めんじゃねぇ」

 きつい佳乃の指に、ねじ込むように自らの指を差し入れると、小野寺は無理矢理ミサンガを奪った。

「だいたい、渡す気がないならはじめから用意すんじゃねぇっつーんだよ。―――ほら」

 持ち主が入れ替わったミサンガを小野寺は佳乃に向けて差し出した。

 やっぱり返すという意味なのだろうかと恐る恐る視線を上げると、小野寺は目をつり上げたままアゴをしゃくった。

 着けろ、という意味らしい。