キミは聞こえる

 精一杯の思いを込めて頷くと、小野寺は鼻の下を小さく擦ってはにかんでみせる。

「約束、な」

 すっと小指だけを伸ばした拳を前に出され、佳乃はそれにおずおずと自分の小指を絡めた。

 自分のより長く綺麗な指だった。

 小野寺の指に力が加わり、きゅっと己の指を絡め取られる。

 反射的に顔を上げてしまい、目が合った。

 これほど近くで小野寺の顔を拝顔したことがなく、ちょっと気を抜いたら涙が出てしまいそうだった。

「……うん」

 ふと間近で見えた小野寺の手首にミサンガはなかった。反対の手首を確認しても、ついてはいない。

(誰からも、もらってないのかな)

 渡したら、着けてくれるかな―――そんなことをちらりと思った。

 携帯電話と一緒に握り込んでいるミサンガは、ちょうどサッカー部の朝練習時間が早まった頃に購入した物である。

 大人びた雰囲気の小野寺に似合う色はやはり黒だろうと、黒と白のシンプルなミサンガを選んだ。

(でも、やっぱり私からなんて、駄目だよね……)

 小野寺がいいと言ってくれても、やはり駄目だ。

 誰にもらったのかと周囲に訊かれて栗原だと答えた後、彼がどんな目で見られるか、想像しなくてもわかる。


『自分を卑下するのは、やめたほうがいい。そんなの、謙遜でも人のためでもなんでもない』


 耳に蘇る友の声。

 自分のことを思って言ってくれたことは痛いほどわかった。嬉しくて、嬉しくて、胸が張り裂けそうだった。

 あのあと、帰ってからミサンガを手に取って佳乃は思った。

 思いのまま行動しても、踏み出してもいいんじゃないか。
 もういっそ駆けだしてしまおう、と。

 ……けれど、どうしても、出来なかった。

 彼の優しさに甘えて、彼まで被害者にするわけにはいかないのだ。

 こうする以外、自分を押さえ込む以上のことなんて、私には出来ない……。

 少し離れた場所から彼をひそかに想い応援することしか―――。

 許されない左手を背中に隠したまま、佳乃は名残惜しくも指をほどいた。