キミは聞こえる

「一瞬のつもりだったけど、そんなにわかりやすかったか?」
「ま、まぁ私は動かないから、試合してる相手にまで伝わるかどうかは―――」
「伝わってんだよ」

 焦燥感に震えた声は、どこか嫉妬のような感情も孕んでいた。

「伝わっちまうんだよ…………いつも、読まれんだ。どの、キーパーにも」

 言いながら、崩れ落ちるように桐野はその場に座り込んだ。
かき上げた前髪の、内側になる部分がしっとりと濡れていた。

 腕に顔を埋める桐野の肩はいつもより一回りほど小さく見えた。

 それが不意に大きく上ずったかと思うと、はぁと深い吐息が落ち、桐野の全身がふるえた。

 伸ばしかけた手を宙で止める。

 こんなとき、慰めの言葉をかけるのはかえって桐野の気を逆撫でるだけではないのか、かえって苦しめてしまうのではないか、

 悪いほう悪いほうへと思考が押し流されて、彼に触れる勇気を自ら滅する。

 けれど、こんなしおらしい桐野を前にして何かせずにはいられず、腕と腕が触れるか触れないかというところで、泉は桐野の隣に腰を下ろした。

 かける言葉はない。

 こんなことしか、いまの自分には出来ないから、せめて、

 ……せめて、寄り添うくらいは。
 
「こんなんじゃ俺、またすぐスタメン下ろされちまうよな」

 顔を上げた桐野の目の端にきらりと光るものを見つけて、慌てて正面に視線を向ける。

 見てはいけないものを見てしまった気がした。

 そのとき、道を歩いていたときふいに胸を逆撫でた不穏な風の正体がなんであるかを泉は悟った。

 あれは、桐野の心中を吹き荒れる不安と焦燥だったのだ。

 泉のことをひとえに案じ、調子を狂わせていたあのときの切なげな瞳と、いまの彼の目は、似ているようでどこか違っていた。


「誰かと競ってるの?」