翔吾の闇に踏み込む方法がはっきりしないのでは、何度心をのぞいても進展は見られぬままであろう。

 ただ闇雲に手を伸ばして叫んだとてどうなるものでもあるまい。
 そんな気がする。

 設楽は言っていた。

 設楽と会話が成立しているのは、設楽が互いの心を開いているためであり、泉はただ言葉を浮かべて発信しているに過ぎないのだと。

 泉自身が心を開くという感覚を身につけなければまったくもって無意味なわけである。

 まぁいままでそんなことが出来るとは考えつきもしなかったから、とにかくやってみないことには出来るかどうかを決めるのはいささか早計ではあるのだけれど、だからといって誰に練習を頼むのだ。

 ………設楽か?

 眉間にシワが寄る。
 駄目だ。

 ヤツ以上に適任者はいないことは火を見るよりも明らかだが、それは嫌だ。

 ならば、どうすれば―――。

 低い声で唸っていると、不意に後ろから響いた着信メロディ。

 佳乃だろうか。携帯を掴み上げて、画面をのぞき込む。

 あ、ちがう。

 桐野だった。

「どうしたの?」
「あっ、代谷? い、いま、ちょっといいか?」

 ベッドに腰掛けうんと返す。「私も桐野君に電話しようと思ってた」

「えっ!! まっ、マジ!?」

 あんまり驚かれてスピーカーから耳を離す。鼓膜がキーンとした。

 夜でも元気だよ、まったくこの男は。部活をしてきたとは思えない。

「私が電話してはいけないのですか?」
「そっ、そんなことねーよ! ちょっと、意外だっただけだ」
「用件は? お先にどうぞ」

 ちょっと沈黙。

 それからはぁとため息が聞こえてきた。