「なぁ小野寺」
「ん?」
「おまえ、いつ言うの?」
「なにが―――ああ、選ばれたってか? いつだろ、明日…か、その次、か。おまえは?」
「俺は………」

 きゅっと手元のタオルを握り込んで、唇を引き結んだ後、

「今日あたり、電話してみようと思う」と桐野は己に言い聞かせるよう呟いた。

 そろそろ、限界だ。

 そう取ってもらえるかは相手が相手なのでわからないけれど、一般的にアピールと呼ばれる行動になるだけ励まなければ。

「そっか。……んじゃさ、そんときよかったらそれとなく訊いてみてくれねぇかな」
「なんで元気がなかったのか、ってか?」

 栗原が。
 ―――先ほど口を滑らせてしまったので今度は注意して名を伏せた。

 小野寺は神妙な顔つきで頷いた。

「わかった。訊けたら、だけどな」
「おう、よろしく頼むぜ。んじゃ、また明日な」

 明日は土曜日だ。

 多少長電話になっても許してもらえるだろう。勉強中だったら不機嫌になられるかも知れないけれど、桐野も気になっていることだ、機会を見て訊いてみようと思う。

 問題は、ああ言っておきながらいざかけようと思ったときボタンが押せるかどうかということで。

(ここまで来てなに言ってンだよ俺……!)

 男ならここぞという勝負でびしっと決めんだよ!

 怖じけずいてちゃだせぇだけだろ!

 さきほどより強く頬を挟み叩く。目に涙がじわりと浮かんだ。

 迷いの残骸まで吹き飛ばすように、桐野は教室への廊下を猛スピードで駆け抜けた。