キミは聞こえる

 帰ろう――立ち上がってカバンを肩にかける。

 のろのろと一階まで降りてくると、昇降口に佇む人影が見えた。

「小野寺。まだ、いたのか」
「おう。帰ろうぜ、桐野」
「……おう」

 自転車通学でない桐野に合わせて、小野寺は自転車を引きながら並んで歩く。
 中学から同じ小野寺とは部活が終わるといつも一緒に帰っていた。

 街灯に群がる蛾の羽音が静かな町に響く。からからと自転車の車輪が音を立てる。

 無言で歩いていた二人の沈黙を破ったのは小野寺だった。

「フェアじゃないと思って、待ってた」
「なにが?」
「おまえの一番を俺が知ってるのに、おまえが知らないこと。興味ねーなら、いいんだけどさ」
「だから、俺は代谷のことなんて、別に―――」


「俺はさ、栗原」


 思わず足が止まった。進んでいく友の背中を凝視する。

 く、栗原…? 
 いま、こいつはたしかにそう言ったのか。

 肩越しに振り返って、小野寺は照れくさそうな笑みを向けると、頬を小さく引っ掻いた。

「ま、じで……?」

 ようやく出てきた言葉はそれだった。それだけだった。繰り返す。

 マジかよ。

「そんなに意外か? まぁ、そうだよな」
「い、いや、意外っつーか、ま、そうなんだけど。でも、なんで」

 からからと笑う小野寺に、桐野は尋ねながら追いかける。

「栗原、さいきん明るくなったよな」
「勉強合宿のとき代谷と仲良くなったみたいで、そんときから変わった気がする」
「俺さ、栗原のことって、嫌いだったんだよな、ぶっちゃけ」 

「……は?」