キミは聞こえる

 おかしいなと思いながらもしばらく根気強くジッパーを引っぱる。

 それでもやっぱり動かなくて。
 終(しま)いにはジャージーに引っかかって、カバンを閉じるどころではなくなった。頭を掻きむしる。

「ああもうっ! なんなんだよっ」

 地団駄を踏んで荒々しくイスに腰掛ける。カバンに突っ伏して息を吐く。

 無人の教室。声も、物音も、ため息の音もなにもかもあっという間に呑み込んでいく。


 なんだか、無性に泣きたくなった。 


 僅かに鼻の奥がつんとして、慌てて起き上がり、天井を仰ぐ。
 落ち着いて正面に向き直ると、また、ため息がこぼれた。

「そんなんじゃねーって、だったらそれ以外になにがあるって言うんだよ……」

 自分に問いかけてみる。

 答えはわかっている。わかりすぎるほどわかっている。

 自覚をすればするほどに、募っていく確かな感情。好きだという熱く、烈しく、もどかしい想い。
 痛みを感じるくらい、代谷を好きになっている。

 けれど―――否、だから。

 その分、なにも感じていないらしい代谷がどんどん遠くなっていく気がして、いてもたってもいられない。


(意気地なしめ……)


 心の中で己を毒づく。

 気心知れた小野寺にさえ打ち明けられないのは、単に他人に知られるのが恥ずかしいというばかりの理由ではないだろう。

 望みがない相手に想いを寄せているなど、あんまりすぎて、言葉に出来ない。

 実力でなんとか出来るものでも、切り開いていけるものでもない。代谷は、サッカーとは違う。
 心のある人間なのだから。

 いつの間にか下を向いていた顔を上げて、諦めてジャージーとちみちみ格闘する。

 なんとか外れると、慣れない手つきでぎこちなく衣服を畳み、旅行に行くときのようにスペースを考えつつ詰めていく。

 ジッパーは、いとも簡単に反対方向へと滑っていった。

 ため息がこぼれる。
 頭を振る。

「ただの、呼吸…だ」

 そう、ただの呼吸。
 なんでも…ない。