キミは聞こえる

「もしスタメンになったら、誰に最初に教える?」
「え…………だ、れだろ。小野寺は?」

 思わず言葉に詰まった。
 まさか、まさにいま考えていたことを問われるとは思いもしなかった。

 とっさにそう返すと、小野寺の表情にも僅かに動揺の色が浮かんだ。

「お、俺?」
「うん、おまえは? 家族? 妹?」

 たしか小野寺にはすこし歳の離れた妹がいたと記憶している。

「花梨(かりん)? あぁ……あいつは、二番、かな」

 含みのある言い方と表情で焦らす。

「じゃあ一番は誰だよ」
「一番ん? それは、てめぇには言わねぇよ」

 小野寺は顔の前でひらひらと手を振った。
 そう言われると気になるのは人間の性だ。

「人に訊いといて、おまえは二番で許されるのかよ」
「桐野は一番も二番も言ってないぞ」
「二番は家族だよ」
「桐野の一番は、俺、知ってるぞ」
「は」

 にやりと笑うと小野寺は桐野の耳許に顔を寄せ、


「代谷泉」


 小さな声で、はっきりとそう言った。

 途端、首のあたりが火が付いたように熱くなった。ぱくぱくと金魚のように口を動かす桐野に、小野寺がぶはっと吹きだす。

「図星っ。おまえって、ほんっとわかりやすいよな!」
「なっ…ち、ちが……っ!」

 突き出した人差し指で額をつんと押されて、思わずのけぞった。危うく転びそうにまでなって、とっさに手すりを掴んだ。

「桐野のクラスはおまえしかサッカー部員いねぇから多分他のやつらは知らねぇよ」
「だっ、だから、べつに俺はそんなんじゃ―――」
「ふぅん?」
「ふ……なっ、なんだよその意味深な相づちは」

 ぷいっと顔を背けると、桐野よりやや背の高い小野寺はわざわざ腰を屈めて下からのぞき込んで桐野を見上げる。

 ……やらしいやつだな……楽しんでやがる。