キミは聞こえる

 立ち上がって、誰もないグラウンドをとぼとぼと横切る。昇降口、代谷の下足箱に入っている靴は内履きだった。
 あたりまえか……。写真部の活動は多くて月三回だ。あいつの下校はとびきり早い。

「遅いな」

 階段の踊り場まで来たとき、不意に頭上から声が降ってきた。

「今日のメニューいつもよりしんどくなかったか?」
「力はいってたな」
「な」

 着替えを済ませた小野寺だった。

「明日だな、桐野」
「ああ、そうだな。どうよ、自信のほどは」
「ある」

 ちょっと噴き出す。
 
「すげぇ自信だな」
「嘘」
「おい」

 嘘かよ。
 肘で小突くと、いてぇと小野寺は片眉をひそめた。

「半分はほんとだ。おまえも、だろ?」
「…まぁな。つか、兄貴が一年のときからスタメンなのに弟の俺がスタメンじゃねぇってのはプライド的に許せねぇもんがあるし」

 明日、大会のスタメンが発表される。
 選ばれる自信は、ある。
 否、ないわけじゃ、ない。

 明日の練習のあと、顧問にユニフォームをもらって、それで、一番に代谷に報告をしたら、あいつはなんと言うだろう。

『おお、すごい』

 とか棒読みで言っちゃったりするんだろうか。

(……)

 ……それでもいい。あいつにすごいと言ってもらえるのならば、それでも。

 嘘だ。

 本心は、ちょっと…悲しい。けっこう、悲しい。相当、悲しい。

 あいつはきっと、俺がひそかに傷ついていることなど欠片も気づきはしないのだろう。そう思うと、虚しくて堪らなかった。

(一番、か)

 ……気づけば、そんなことまで考えている。恋人のいない自分なら、普通、はじめに報告すべきは家族であろうはずなのに、家族を差し置いてあいつの顔が脳裏をよぎる。

 誰からの反応よりも早く、あいつの言葉を俺は強く欲している。

 あいつという存在が、日増しに自分の中で大きくなっているのだと実感する。

 ……それだけに、無反応すぎる彼女との温度差がいっそう激しく感じられて、心で泣かずにはいられない。