キミは聞こえる

 *

 六月に入り、だいぶと陽が長くなった。

 夏場の部活延長は長くても十九時まで。中学は十八時半が限界だったけれど、高校はそれよりもうすこしだけ長めの活動が許されている。

 練習が終わってしばらく経つ。
 マネージャーのいない今、片付けはすべて後輩の勤めであり、それが終わるとみな着替えのために教室へ向かった。
 桐野は、一人グラウンドのベンチに腰掛けながら沈みゆく夕陽を見つめたそがれていた。

 火照っていた身体はとうに落ち着き、いまは汗で濡れた練習着が冷たくさえ感じられる。

 代谷はいつも寒い寒いと大袈裟なほどに繰り返している。たしかに、余所から来た者には鈴森の寒さは堪えるかも知れないけれど、衣替えを済ませてもなお、いまだにカーディガンを必要としているのは学校中を探しても代谷くらいなものだろう。
 燃焼効率が悪すぎるのではないだろうか。
 賢いくせにいつもぼげーっと魂が抜けたような顔をしているのも原因かも知れない。

(掃除ンとき、なに言いかけてたんだろ)

 人の話をまるで無視して切り出したあいつ。
 あのさ、桐野くんはさ、のあと。気になる。

 そのくせ、気が向いたらなんてふざけたことを抜かしやがった。

 あいつの気が向いたらは、一生ないことと同じなんじゃないか。そんなふうに思わずにいられない妙な雰囲気をあいつは持ってる。

 いっそ自分から切り出してみようか。なんだったんだ、って。なにを訊きたかったんだ、って。

 そして、できれば、もうひとつ。

 たいした会話してない、そう言った代谷のたいした内容じゃない内容を、知りたくてしょうがない。訊きたい。設楽となにを話したんだ。

 くだらない話を代谷がするはずはない。あいつが設楽を嫌う気持ちはきっと本物で、なにかを話したとすれば代谷がたいしたことはないと言ってもきっとたいしたことのはずで、すくなくとも桐野にはそうとしか思えなくて、だから知りたくて、
 知りたくて、
 考えるだけで夜も眠れない。

 そうかなんて、なにを格好つけた言い方をしたんだろう。