キミは聞こえる

 クローゼットにかけられた黒衣装。ハンガーを手にとって、かんがえる。
 こんな格好で行って、桐野家にお邪魔するのは如何なものだろう、と。

 これはあくまでも一人で外を出歩く場合の格好であり、隣に桐野がいるのならば別に必要ないのではないだろうか。

 外へ行く。だから周りを気にして着飾る、ということをあまり考えない泉であるが、さすがに余所様の家に上がるのに全身黒では、なにコイツ、と思われかねない。

 迷い迷った末、ベッドに黒衣装を放り投げると、泉は適当に服を見繕い、手早く制服から着替えを済ませた。

 家の合い鍵を引っつかんで部屋を出る。
 出たところで、やはり非常用道具の揃った黒リュックだけは外せないかと思い、部屋に戻ると、ポケットに入れた携帯と財布をポケットに詰めて背負う。
 ドアが開いた音で、桐野がこちらを振り返った。

「あれ、フツーのかっこ」
「さすがに失礼かと思い直しまして」
「それもそうだな。そっちのほうがいいよ」

 桐野に背を向けながら鍵をかけていた手が不意に止まる。

 そっちのほうがいい。

 ……なんだ、このざわっとした感覚。
 不快ではない。断じてそうではないが、ならばなんだ、これは。

「リュックはそれなんだな」
「最低でもスタンガンは持ち歩けって言われてるの」
「そ…そう……」

 田舎にそんな女子高生いねーよ、という顔だ。まぁ、そうだろう。しかしいるのだ、ここに。
 必要とする女子高生が。

「行こうぜ」
「うん」

 桐野家へ向かうまでの道のり、桐野は一度も泉を見ることはなかった。