キミは聞こえる

「ねぇよ」
「私でよければ話聞くけど」

 いいアドバイスが出来ない確率99%だけれど。

 もう一度、躊躇する桐野。
 わかりやすい。
 これほど表情にはっきり表れる人もめずらしい。

 隠せない素直さが彼の良さだろうとは思うけれど、こういうとき、惜しいな、と思う。

 けれど、桐野はやはりなにを言うこともなかった。
 儚げな笑みを浮かべ、もう一度首を横に振った。

「なんもねぇんだって」
「そう。なら、いいけど」

 着替えに行こうと離した手を不意に掴まれた。
 桐野の手はずいぶんと冷たかった。季節は着実に夏へと動き始めているのに。

 視線が交差する。大きな瞳。陽を浴びて、虹彩の色が橙色に輝いている。

 彼はたぶん、人より瞳が大きい。
 少女ならば愛くるしいとでも言うのだろうか。
 形(なり)はほぼ大人に近いが、顔の一部のみがずいぶんと幼い。

 だからなのか、
 切なげに見つめられると、こちらまで心がざわついてしまう。

 それとも、異性からのみ発せられる泉ら女にはないなにかが彼女の胸を揺さぶるのか。

 はたまた、

 桐野だから、これほど特別に、泉を騒がせて止まないのか。


 だとしたら、
 何故………。


「あ、あのさ、俺、実は、その……」

 
 歯切れの悪い桐野を泉は待つ。
 今ならいくらでも待とうと思った。
 面倒などと思わずに待とう――待てると。

 急かさず、問わず、ただただじっと、桐野の次の言葉を待つ。
 出来るだけ、穏やかに。