キミは聞こえる

 すこしだけムッとする。

 自慢かよ。
 泉が遅いとでも言いたいのか。

「やっぱり今日は早く寝るべきだと思う」

 傍らを通り過ぎながら泉は言った。

 おそらく、とんでもないキノコでも食したか、おかしかものに憑かれているに違いない。早く万全に戻して、奇妙なものたちには早々におさらばしてもらうべきだと思う。


 
「俺、ここで待ってようか」

 代谷家の門前で桐野が尋ねた。

「いいよ。一人で行ける」
「家、わかんの?」
「説明して」
「この道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を左に曲がって……………いや、やっぱここで待ってる」
「じゃあ急いで着替えてくるから」
「またあの真っ黒な格好か?」
「あれ以外の服を着て外出するのを友香ちゃんが許してくれない」
「ああ、そう……」

 やはり今日の桐野はおかしい。いや、ここまでおかしいともはや気味が悪いくらいだ。

 自分などが邪魔をして気を使わせるくらいなら、いまここで一人家に帰し、ゆっくりしてもらったほうがいいのではないのかという気もする。

 俺、ここにいるから。そう言うと、門に身体を預けて視線を落とした桐野のシャツを引っぱる。

 泉に向けられた目は陽光の眩しさで細くなっていたけれど、輝く睫毛の奥で揺れる瞳は、話しかけられたことによる驚きと、その陰で、なにか切なさのようなものが潜んでいるように思えた。

「ほんとうに、私、行ってもいいの?」
「だからいいんだって」
「ねぇ」
「ん?」
「……なにか、悩みでもあるの?」

 首を傾げると、桐野はわずかに躊躇いの色を見せ、微かに唇を開いた。
 しかしまたもや先に続くはずの声が出てこない。

 顔を背けて、力なく首を振った。