キミは聞こえる

「どうした、いきなり」
「臆病とか、簡単に口に出来るんだもん。強い人」

 視線を感じて、見上げると、さっと顔を背けられた。
 のぞき込むと、ますます桐野は首を捻って泉から顔を遠ざける。

「だけど、変なヒト」
「しっ、代谷だけには言われたくねぇっ」

 なんとも失礼な声が返ってきた。
 夕陽のせいか、調子が悪いからなのか、妙に顔の赤みが強い。

「でも、本当にそう思うよ。必死になれるって、なんかいいじゃん。青春だ」

 青春。

 桐野にあって、泉にないもの。

 中学高校、十代である自分らが生きる今このときを青春と呼ぶものだと思っていた。

 しかし、桐野や小野寺、響子の練習風景を眺め、康士の野球話を聞き、佳乃の赤らんだ頬を目の当たりにして、なにか違うと頭の片隅で考えていた。

 彼らと接していると、いつも泉の胸に迫るものがあると。

 焦燥や虚無、昂奮、そして、羨望。
 面倒など、大嫌いなはずなのに、見えないなにかが確かに泉の心を打つ。

『俺は、人を選ばない。悲しんでいるヤツがいたら、分け隔てなく肩を叩く。自分のためだけとか、意味のないことにだけとか、そんなことには力は使わない。だから自信を持って違うと言えるし、自分が特別であることにおごりも恐怖も後悔も感じない』

 あの日から、設楽に言われたあの日から、ずっとイライラが止まらない。

 桐野がサッカーをするのだって、自分のためだろう。
 しかし、彼には夢がある。

 設楽が力を躊躇なく行使できるのは、神より授けられた恩寵を人々に分け与えるためだ。
 偉ぶることもせず、選ばれた自分に出来ることをやって笑顔を増やそうとしている。


 私は、と考える。


 いや……考えずとも、わかっている。


 私は、私には――――なにも、ない。