キミは聞こえる

 静物だったら得意なのに、と思う。
 サッカーはちっとも上達しない。あの授業以来、泉のチームにおける必要性はとうとうゼロになった。

 千紗は言った。

 動かないで、危なくないところにいて、と。
 つまり、参加するな、ということだ。

 万が一顔にでも当たったら、それこそ事だからと。

 あれからというもの、それまで何度となく真面目にやれと発破をかけてきた体育教師も、練習中泉が気を抜いてぼげーっとしていても注意の声を上げなくなった。
 素晴らしい。

「気にしてんだ?」
「べつに」
「ふぅん?」
「なに、その意味深なふぅんは」
「べつに。まぁ本心ではぜったい全国行って俺の名前を知らしめてやるって意気込んでる部分はあるんだけどさ。一年のうちに全国で活躍できたら注目の的だろ。すっげー気持ちいいじゃん。だけどさ、俺、普段うるさいわりに肝心なとこで臆病なんだ」

 照れくさそうに桐野は笑う。

 己の恥じる部分を理解しているだけでも立派だろうに、それを言葉にして誰かに打ち明けることが出来る。桐野は、春、病院で会ったときと――祖母の点滴を取り替えて欲しいという合図に気づかず苛立っていた自分を情けないと言ったあのときと――同じ顔をしていた。

 ……なにが、と思った。

 知らず、拳を握りしめていた。


 なにが……格好悪いだ。


 県大会に行きたい、いやいや、全国大会に行ってやる、それで名を知らしめるんだ。
 どれも素敵で、立派な夢じゃないか。野望じゃないか。

 たくましさ、凛々しさ、清々しさ、そのものではないか。


 人間、夢がなければその程度の場所にしか行けないのだろうということは、泉自身がよくわかっている。