キミは聞こえる

「もう帰ろう。着替えてから桐野君の家いくから」

 カバンを取りに席へ戻る。うしろを桐野が着いてくる。
 あのさ。

 ぽつりと、桐野は言った。

「なに?」

 まだ引き留めんのかよ。いいかげん学校出ようぜ。疲れた。眠いし。来週テストだし。腹減ったし。
 もはやそんな言葉しか浮かばない。
 放課後になってやっほーと心躍っていた時間帯などとうに越えている。

 振り返ると、一度目が合い、すぐさまそらされた。佳乃みたいだな、と思った。

 ああ、早く帰りてぇ。
 正直、わざわざ夕飯をご馳走にならなくてもいい。
 友香父お気に入りのスルメイカを適当につまんでそれっきりでもまったくかまわないのだが。

「俺は、聞いてるよ。代谷の話」
「……ほんとに?」
「うん」
「じゃあ早く帰ろう」
「え」

 桐野のカバンを持ち上げ、ぐっと突き出す。
 すると桐野は不意を突かれたように寸刻きょとんとして、それからばっとカバンを奪った。
 勢いよく取り上げられて、すこし、指先が痛かった。

「あっ、わ、悪い……」
「………別にいいけど。なんなの、いったい」

 取り乱しているのか、喧嘩を売ってるのか。
 季節の変わり目は体調を崩しやすいという。そういえばこの前、桐野は腹痛だった(と泉たちで勝手に結論づけた)。
 あのときから不調で、うまく自分をコントロールできていないのかも知れない。

 そう思えば桐野が桐野らしくない表情を見せるのも納得というものだ。