キミは聞こえる

 ……しかし、そこから先が続かない。
 結局閉じて、視線を彷徨わせる。


 ……らしくない。


 気味が悪いくらいに、桐野らしくない。
 泉はため息をついて、掃除用具入れの戸を押し閉じた。

「第一、私の理想は設楽って人みたいやつじゃなくて……――――――」
「じゃなくて?」

 桐野の興味を引いたか、のぞくように視線を向けられた次の瞬間、

 …………あれ、と泉は思った。

 私の理想って、どんなだ……?

 ちーん、という音が彼方で弱く木霊する。

 掃除用具入れに手を着いたまま、泉は固まった。
 まずい、まったく浮かばない。

「ち、ちなみに桐野くんの理想のタイプはなんですか?」

 ここは考える時間を確保しなければ、と選んだ策が押しつけである。
 とっさの質問(それも敬語)に桐野の表情が引きつった。

「えっ、お、俺!?」
「そ、そう、おれ……」

 私は、と必死で考える。
 誰だ。誰だ誰だ誰だ。
 思い浮かべろ。俳優でもいい、モデルでもいい、タレントでもいい。最近ときめいたことはなかったか。ああいいな、と感じた瞬間はなかったか。

 ときめき。

 四文字が脳をかすめたそのとき、ふっと浮かんだ三つの顔。


 大牙、エリアス、MI-1744。