キミは聞こえる

「うん」

 足音が近づく。音は複数人分だ。カーテンに影が六つほど浮かび上がる。すこし怖いと思った。

「開けてもいい?」
「いいよ。私ももう戻ろうと思ってた」

 それならと、千紗はカーテンを勢いよくめくった。なにもそこまで元気よく開けなくても、と思った。彼女らしいといえば彼女らしいが。

「なんともない? まぁあれだけ思いっきりボールに吹っ飛ばされて何ともないわけないと思うけど」

 心配そうにのぞき込む響子に「ちょっとまだ痛むところあるけど、平気だよ」と嘘をつく。

 嘘はすぐにばれてしまった。
 ベッドを降りるときほんのすこし前屈みになっただけで胸部に鋭い痛みが走り、おもわずうっと声が漏れてしまったのだ。

 支えようと両隣に移動する千紗と響子だが、両肘に脱脂綿と医療用テープが貼られているのに気づくと、どうしてよいものか戸惑いと躊躇の色を浮かべ、互いの顔を見合わせた。

「俺、教室までおぶってこうか」

 そう言ったのはクラスメイトの男子だった。
 あー……名前ー……わからない。たしか、美味しそうな名前だったような気がするのだけれど。

「おー、矢吹(やぶき)もたまには気が利くじゃん。泉、そうしてもらいなよ」
「ベッド下りるだけでも大変じゃあ階段なんて絶対無理じゃん」

 たしかに。
 だが………。
 というか、

(名前、ぜんぜんわかんなかった)

 誰だ、美味しそうなとか言ったやつ。どこにも美味しそう要素がないではないか。