キミは聞こえる

 自然、気道が開く。
 気づいたときにはもう、泉は口を開けていた。

「………助けたい子が、いるの」

 麦茶のおかわりを継ぎ足す手を止めて、設楽は振り返った。

「どういう子? 俺に訊くってことはそっち関係のことだよね。それ以外で訊かれても、医学の知識なんてゼロだけど」
「わかってる。いちいちうるさい」

 父親の藤吾は賑やかなほうではない。かといって無口というわけでもないのだが、無駄がない話し方をする人である。周囲に男子という男子がいない生活を送ってきた泉にとって、男の基準は父である。それ故に、男とは生来口数の少ない者だと思っていた。

 が、この町に来て、実際はそうではないらしいと思い知った。

 桐野家三兄弟下二人、クラスメイト、そして、設楽までもがまぁよく喋る。
 雰囲気を和やかにしようという配慮なのか、単に冗談を混ぜ込むのが好きなのか、両方なのか知らないが自分が静かなほうである分、殊にうるさく感じる。

「せっかく二人きりなんだから無駄なことも喋りたいんだよ。たとえば趣味とか、好きな食べ物とか、どんなところに遊びに行くのかとか」
「小学二年生」
「……は?」
「その子。声が、まったく聞こえなかった」

 ああ、そっちね。俺、いま完全に流されたんだね、という表情だ。
 気にせず続ける。

「心が、読めなかった」
「たまたま代谷サンが調子悪かったとかではなくて?」
「そんなことない。その近くにいたの子の声はちゃんと聞こえた」

 泉にはなんの問題もなかった。翔吾の声だけが、聞こえなかったのだ。
 麦茶を近くにあったキャストに置き、設楽は腕を組んだ。

「もっと詳しい状況を教えてくれるかな。声が聞こえなかっただけじゃああまりにも漠然としてるから俺としても答えようがない。声が聞こえてこないことなら、夢を見てないだけとか、ぼんやり黄昏れてるだけとかでもあることだから」